蒲の編物を伝承するイベタ・ダンドバーさんとの出会い
2016年 08月 15日
彼女とコンタクトを取り、車で連れて行ってくれたのが親戚のカレル、通訳は娘の千草。赤ん坊も入れると総勢6人の訪問団になりました。


溌剌とした印象のイベタさんが笑顔で迎え入れてくれたのは築100年の自宅兼工房。伝統工芸を保護している町として有名なBakovの出身で、父親はオロビネツ(蒲)の編物の名手でしたが、本人は機械の設計の仕事をしていたそうです。産休明けにBakov工芸センターのワークショップに参加したのがきっかけで、その魅力を再認識。方向転換し、以来25年間、ガマで様々なものを編み続けています。その技術とセンスが認められ、2007年には国の伝統工芸士の認定も受けました。
日本ではガマは、その独特の茶色の穂を生け花の素材としてよく目にしますが、カゴ編みの素材として使えるとは知りませんでした。
ガマのバスケットは竹や蔓のそれと比べると、持ったとたん拍子抜けするほど軽いのですが、30年はもつと言われ、丈夫さでは竹に引けを取らないようです。かつ、しなやかで、優しい手触り。美しい光沢も特徴です。
ガマで生活用品をつくる技法は、約300年前にイタリアの僧侶がチェコに伝えたと言われ、広く作られるようになったそう。ただ、親から子への口承で文献などはなく、1948年、チェコが共産主義に移行して以後、ガマの編物は急速にすたれていってしまいました。現在、チェコ国内でガマを素材から集めて編んでいる人はイベタさんとその娘達の3人だけだということです。
日本でも見かけるガマの穂。編物に使うのは茎の部分で穂や葉は使いません。


ガマは夏場は青々と茂っていますが、刈り取るのは冬。クリスマス時期には鯉の養殖の池の水が抜かれる為、刈り取りやすくなります。根っこの方が柔らかくて編物にいいそうです。(チェコではクリスマスに鯉を食べる習慣があり、鯉の捕獲の為、池の水が抜かれます。)
刈り取りは家族ぐるみで行い、乾燥させておきますが、この材料を準備する作業に1年の4分の3を費やすと言います。よく乾燥させ。一番外側の皮をむいて、太いものは割いて使いますが、編む前に3日間ほど水に浸けて柔らかくしておきます。
ガマの切り口をよく見ると、細かな導管がぐるりとスポンジ状の芯を取り巻いており、天然のクッション材になっているのがわかります。この構造が、軽くて保温性がありしなやかなガマの特性となっています。これらの特性を生かして、パンの発酵用のザルやゴザ、またスリッパもたくさん作られていました。

乾くとこうなり、弾力が生まれます。

パンの発酵に使われていたガマのカゴ。猫が気持ち良さそうに休んでいました。


編むものはバスケットやバック、帽子やスリッパ、飾り物など、小さなものから大きなものまでいろいろです。飾り物以外は型を使うのですが、編む人がいなくなり、ほとんど残っていないので貴重品です。胴部分が膨らんでいるバスケットなどは抜きやすいように真ん中が抜けるようになっています。


ガマのつややかで温かい表情に魅せられ、果物を盛ってみました。汚れたら薄い塩水で洗うといいそうです。ネットショップミラベルカでは9種類のバスケットをお求めいただけます。


イベタさんの明るい工房で、実際に編んで見せてくれました。1時間半ほどで直径26㎝のフラットバスケットが編み上がりました。その手わざを、イベタさん提供のDVDから抜粋した動画でご覧ください。
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